平和主義
「何で結婚しないんですか?」などという浅はかな質問に対しては、
「宇宙戦争が起こるから」と答えるようにしている。
もしも私が婚約をしたならば。
世界中の首脳が悲しみの電報を打ち、
半旗を掲げ、
おっくせんまんの独身男子たちが打ちのめされ、私の自宅へと列をなす。
それを見た宇宙人が
「あれは万里の長城か」と思う。
「ウソぴょん!やっぱやめよっかな~」
などと言おうものうなら即刻、
各国より伝書鳩が飛ばされ、
いたるところで花火が上がり、
独身男子の大群は涙乾いて大はしゃぎ。
それを見た宇宙人が
「あれはリオのカーニバルか」「いや、メッカ巡礼では」「将軍様の聖誕祭でしょう」
などと意見が割れ、
確かめに近寄ったが最後、
あらゆる動物が街から逃げ出し、
机の上の水飲み鳥(注1)はカタカタと揺れ、
かつてさらわれ身体に刻印を刻まれし者は七色に光り出し、
しまいにゃどっかの国の衛星レーダーに引っ掛かり、
あらま地球は大騒ぎ。
地球防衛軍が編成され、
原油はシンジラレナイ価格までに高騰し、
大槻教授は土下座してこれまでの自らの見解を詫び、
宇宙教トム・クルーズは喜び、庭駆け回る。
世界中の独身男子を圧死させぬためにも
世界経済の混乱を避けるためにも
朝礼台でスピーカー握って「これが俺たちのインデペンデント・デイだ!」などと叫ばないで済むようにするためにも
地球と書いてテラと読むこの惑星と書いてホシを守るべく、
まだしばらくは結婚しないことにしている、ということにしているのである。
(注1)昭和レトロのおもちゃ。一家に一台あったア・イ・ツ。
おばあちゃん、じゃなくてOverture
「いやあ、年が経つのは早い。
今年はコロナのせいか、特にあっという間ですねぇ!」
なんて挨拶交わす年の瀬になりました。
人に会えないご時世。ただでさえ鈍かった婚活が完全ベタ凪状態。
旅行行けないし。飲みにも出てないし。新たな出会いもない。
3ない。
どころじゃない。ないない尽くし。
うすにごりの水槽の中でぶくぶくぬくぬく。いたずらに過ぎる日々。
時は止まっているようで、顔面には確実に刻み込まれている、シワ。
「夢を、見たの。」
知り合いぎゅう詰めのSNSからちょいと抜け出して、名無しのごんべでつぶやいてみるみる。
「わたしだけじゃないんだな」ってほっとしてくれる人がいたら、いいな。